ニーズとウォンツについてさらに掘り下げて考えてみようと思います。
自分が物を買うときのことを考えながら読んでいただくととても分かりやすくなります。
最近は、ミニマリストという最低限のものだけで生活するというライフスタイルもありますが、裏を返せばこれもウォンツのなせる技です。
なぜなら、物がない生活を欲しているんですからね。
ニーズとウォンツの違い
ニーズとウォンツを日本語に訳すとニーズは必要性、ウォンツは欲求です。
そのままですね。
まずは、ニーズとウォンツについて簡単に違いをまとめてみました。
マーケティングの世界では、ニーズは売りにくいと言われています。
例えば、ニーズの代表として挙げられるものに日用品のティッシュペーパーやトイレットペーパーがあります。これらは、必要性に駆られて購入します。
なので、いつでも簡単に安く手に入れるように行動します。
いわゆる価格弾力性が高くコモディティ化が進んでいる状態で、数十円の値上げで売れ行きが極端に下がってしまいます。
ニーズは、その商品やサービスが十分存在する場合、差別化はとても難しく、価格競争に巻き込まれやすいと言えます。
逆に、ウォンツの方が比較的売るのが簡単です。
なぜなら人は、自分の欲望を満たすために生きているからです。
その商品やサービスを日頃から欲しくて欲しくてたまらない人にその商品を売るんですから、買えるだけのお金さえあれば(場合によってはお金を持っていなくても)、比較的簡単に売ることができるでしょう。
そして、世の中のほとんどのものは、ウォンツです。ニーズだけで回っている世界を想像してみると、その味気なさに悲しくなりますね。
ニーズではなくウォンツで差別化
さて、薬局の薬剤師は、ニーズとウォンツ、どちらで差別化すればいいのでしょうか?
本当は、患者さんや地域の住民の方々に聞いて回るのが一番です。ニーズやウォンツ、特にウォンツは人それぞれですからね。
ですが、厄介なのは、ニーズもウォンツも患者さん自身が気付いていないことが多いというところです。
患者さんのニーズ
患者さんが薬局にいらっしゃる1番の理由は、病気を治す必要があるかもしくは病気が悪化するのを防ぐためですよね。
つまりそれらはニーズになります。
そして、もう少し踏み込むと本当のニーズは、病気を治したり悪化させないことで、今後も仕事を続けることかもしれませんし、家族に心配をかけないことかもしれません。
では、薬局にいらっしゃる患者さんのウォンツはなんでしょうか?
患者さんの基本ウォンツ
病気を治したり、悪化させない為に色んな方法があるはずです。
別に薬である必要はありません。
ですが、薬局にいらっしゃる患者さんは、いろんな方法の中から病院を受診して処方せんをもらい薬局で薬をもらって、薬で病気を治すもしくは悪化を防ぐという手段を利用したいと思っているということです。
そう考えると、薬はウォンツですね。
ただ、この場合、薬は「基本ウォンツ」です。つまり、薬をもらえれば、とりあえずのニーズは満たされるということです。
ここまでで差別化するとしたら、やはり立地でしょうね。
病院から近ければ近いほど、患者さんの基本ウォンツである薬が欲しいというウォンツがいち早く達成されますからね。
院内処方がいまだに取り沙汰されているのは、この基本ウォンツを満たすことに重点が置かれているからに他なりません。
ですが、ウォンツには別のウォンツがあります。それは、条件ウォンツと期待ウォンツです。
基本ウォンツまで満たされれば、患者さんの薬が欲しいという最低限の欲求は満たされるかもしれません。
ですが、この時点で患者さんのニーズが満たされたかというとちょっと疑問が残ります。なぜなら、まだ病気は治っていないし、病気の悪化が防げたわけでもないからです。
それに、
などを考えないと患者さんの病気を治す必要性や病気が悪化するのを防ぐというニーズを満たすことができないどころか、逆に病気悪化させてしまったり、薬害という新たな病気を生み出しかねません。
そこで期待ウォンツについて考える必要が出てきます。
さあ、ここからが薬局薬剤師の腕の見せ所ですよ。
患者さんの期待ウォンツ
期待ウォンツは、患者さんがもともと期待していて、当然満たされるべきと考えていることです。
患者さんは、薬局でもらう薬は必ず正しいとか、自分に必ず効くはずだといった前提を持っているかもしれません。他にも、薬剤師さんは丁寧に説明してくれるはずだとか、副作用について全部伝えてくれているはずだとか・・・
これらは、それぞれの患者さんの過去の経験によって形成されたウォンツですから、患者さんによっても違いますし、同じ患者さんでも経験を重ねるごとに変わっていく可能性があります。
逆に考えると、薬局や薬剤師が患者さんに体験を提供することによって、自分の薬局が優位に立てるような期待ウォンツを作り上げることができるとも言えます。
例えば、
など近隣の薬局がやっていないことを当たり前の体験として提供することで、他の薬局でその期待ウォンツが満たされなかったときに、不満につながるということになります。
特に自分の薬局での得意分野や競合薬局よりも優位な分野で、期待ウォンツを形成することができれば、マーケティング戦略を優位に進めることができます。
患者さんの条件ウォンツ
最後に条件ウォンツです。
条件ウォンツとは、患者さんが解決するための基本ウォンツに対する条件付けのことで、もっと簡単に言うと患者さんが解決する方向性を選ぶための条件ということです。
薬をもらうのが基本ウォンツだとすると、
などの条件が条件ウォンツですね。
ただこれにはもう一歩踏み込んだ考え方が必要です。
それは、関与度です。
薬をもらえるならどこでもいいやという患者さんや今まで一度も薬局で処方箋調剤をしてもらったことがないという患者さんは、関与度が低い患者さんです。
こういった患者さんは薬局や薬剤師に関する知識や経験が不足していますから、こだわりも少なくなります。
逆に、過去にいろんな薬局で処方箋調剤をしてもらったことがあったり、例えば女性の薬剤師さんからしか薬を渡して貰いたくないというこだわりの強い患者さんなどは、関与度が高いということになります。
関与度の高い患者さんについては、その条件についてのリサーチが欠かせません。自分から話してくれればいいのですが、何も言わずに去ってしまうのも関与度の高い患者さんの特徴でもありますから、注意が必要です。
あなたの薬局にも何人か思い当たる患者さんがいるのではないでしょうか?
関与度の低い患者さんについては、二通りのアプローチ方法が考えられます。
薬局の場合は、価格でのアプローチとしては、2020年4月の調剤報酬改定を例にあげますと、処方箋を複数枚同時に持ってくると数十円安くなるとか、3ヶ月以内に処方箋とお薬手帳を持って来局すると数十円安くなるといった程度でしょうか?
条件ウォンツの価格への関与度が高い患者さんにとってはうまく機能するかもしれませんが、価格のアプローチはすぐに慣れてしまうので、あまり期待できないような気もします。
どちらかというと、薬局の場合は、もう一方のアプローチ方法である自薬局に優位になるような条件ウォンツを形成するほうがより期待できるのではないでしょうか?
まとめ
僕は、薬剤師になった頃からずっと
服薬指導よりも大事なことは、患者教育だ!
と言い続けていました。
ですが、当時20代そこそこの若造の話をまともに聞いてくれる方はいませんでした。今となれば、服薬指導よりも大事って言いすぎだろ!っと思いますが、同じくらい大事だとは今も思ってます。
言葉尻だけで捉えると、「患者教育」って何か上から目線のような気もしますが、そうではなく次のようなイメージです。
つまり、まだ患者さんや地域の皆さん自身が気がついていない薬局や薬剤師へのニーズやウォンツを薬局での体験を通じて感じてもらい、理解してもらいましょうというふうにとっていただけると幸いです。
マーケティングを学んで、いざ実践してみると期待ウォンツや条件ウォンツを自薬局が優位になるように形成することはすなわち、患者教育そのものだなと感じています。
ファーマコミュニティーマーケティングを実践する上で、患者さんとの関係性の構築は必須です。
そして、そのためには患者さんのニーズとウォンツを正しく見極めることが非常に大切ですし、より高度なウォンツを満たすために薬剤師が存在するということをもっと広める必要があると思っています。
とは言え、患者さんのニーズやウォンツは常に変化します。
過去の成功体験だけに惑わされずに、患者さんの持つ条件ウォンツの変化に敏感にならないと、マーケティングマイオピア に陥ってしまいます。
常に患者さんのニーズやウォンツをリサーチし続けることも薬剤師の大切な仕事の一つだと考えますが、皆さんはいかがでしょうか?
最後までお読みいただきありがとうございます。
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